『アクマ。』

『おいらは黒い悪魔だ。真っ黒い悪魔だ、とんがったしっぽをブンブンふりまわして この世を全て真っ黒にしてやる。』それが、アクマの野望でした。
むかしは、静かでちょうど良い湿気ぐあいの、深い森の中にアクマは住んでいました。
友達はキュウケツこうもり君。
生暖かい風が吹く夜に、消えてなくなりそうなお月様を眺めては、森の生き物達と
青々と燃える火で炊いた暗闇のスープを分けあって頂くのでした。
魔女たちが唄い、妖精が踊る楽しい宴を、毎夜毎夜繰り返しておりました。
アクマは、仲間たちといる時がとても嬉しいのです。
でも、その嬉しいも今では遠い遠いむかしの事になってしまいました。
何者かによって、森が壊されていったのです。仲間たちはどんどん消えていきました。
アクマとこうもりくんは、今ではだれも近寄らない古いお城に隠れるように住み着きました。
お城の中はとても埃っぽくて、昼間でも夜の闇にいる様なとても住み心地の良いところでした。
『みんなは、どうしているんだろう?』アクマがつぶやきました。
『さあ、わからない。』こうもりくんも、心配そうに言いました。
二人は、かすかに見える自分たちの住んでいた森の方を見つめていました。
夜になって、大きなまるいお月様に照らされながら二人は森に向かいました。
だけど、森はすっかり姿を変えていました。
土は、アスファルトの下に閉じ込められていました。
見慣れぬ、こぎれいな四角い建物が並び夜だというのに、真昼のように明るくてこうもりくんは、 アクマの手の中に隠れました。
『もう、すっかり変わってしまったみたいだ。みんなは、どうしたんだろう?。』
アクマは、すっかり元気をなくしてしまいました。
そんな時、アクマの指の間から外を見ていたこうもりくんが、何かを見付けました。
『アクマ見て、木がいるよ。ほら、そこに立っているよ。』
アクマは、こうもりくんの言う方を見て嬉しくなって、木に駆け寄って行きました。
だけどその木は、まったくの木違いでした。彼は、遠い遠い外国から連れて来られたのだそうです。
彼の家族や友達も一緒に連れて来られたのですが、みんなどこにいるのかサッパリわからないのだそうです。
『いったい誰に連れて来られたんだい?。』
アクマが聞くと、木は悲しそうな目で空を見つめるとボソッとひとこと『やつら』 と言ったきりもう、口をきこうとはしませんでした。
アクマもこうもりくんも、何も言えませんでした。
きっと、自分たちが今、感じている以上に木は悲しいんだ。 
二人は、重い足取りでお城に帰って行きました。
重い気分の中で、二人は眠りに入ろうとベッドに入りました。
すると、ものすごい地響きと共に壁が崩れはじめました。
何が何だか良くわからない二人は、とにかく外に逃げました。
外では、照りつけるお日様とやつらが待ち構えていました。
アクマは、慌ててこうもりくんを手の中に隠しました。
こうもりくんもアクマもお日様とは、相性が悪いのです。
アクマは、とにかく走り出しました。暗闇を求めて、必死で走りました。
だけど、お城の周りには何もないし、とうのお城はやつらに壊されていく。
森も壊されてなくなっているし、もうどこにも闇はない。
真昼のお日様はジリジリ何もかもコガして行きます。アクマは、もう疲れてしまいました。
歩くことも出来ません。気が付くと昨日の木の下にいました。手の中のこうもりくんも少し弱っていました。
アクマは、もう時間が終わりに近づいている事を知りました。
『こうもりくん、今まで一緒にいれて嬉しかったよ。ありがとうね。どうしておいらたちは、こうなってしまったんだろう?やつらは、何をしてもいいんだね。おいらは、納得してないけど…。おいらは、悪魔なのに真っ黒い悪魔なのに…。暗闇をつくることが出来なかったよ。ごめんね。』
そのまま二人は、木の下で永い眠りにつきました。
きっと、二度と目を覚ます事はないでしょう。
外国の木は、そんな二人に木の葉のふとんをかけてあげました。もう、お日様のジリジリが届かないようにと。
そして、風と一緒に二人のために子守唄を今でも唄い続けているのでした。



おしまい。


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