『ギンちゃん。』

おれの名前は、ギン。すっげ−寒いところに住んでるんだ。
朝起きたら、ふとん凍ってるし。カキ氷は、食べ放題。
だけどさぁ、氷ばっかじゃ腹の足しになんないってーのよ。
食べ物なんて、思いっきり不足しててさ。魚食べたいけど海も凍ってっから 捕るにとれない。
「プランクトン食って、まるまる太った魚が食いてー!!。」
って、叫んでもおいらの声がこだまするだけ。
まったく。ここはフリーザーか?。誰かがダイヤル回し過ぎやがったんだな。
隣のじーちゃんは、先月フリーズしてしまった。
昨日は、向いのクソガキが。次は、おれの番かな?。
そんな事思いながら、おれは、どうせ死ぬんならなんとしてでも魚食ってから死んでやるー!!。
と、決めてスコップを持って海の氷を割った。
だけど氷の奴は強くて、なかなか魚にまでたどり着かない。
「くそーっ!こっちだって生活かかってんだから割れてくれよ。」
なんて言ったところで、何も変わるはずもなく。
とうとう力も尽きて来た時、氷の薄くなった所から何かが氷を突き破ったでて来た。
あんまり勢い良く出て来たので、何か認識するのに少々時間がかかってしまった。
べ、別にビビった訳じゃないぞ!えへん。おれ様は、泣く子も笑うペンギン様だからな。
なんか間違ってるか?まぁいいさ。
さっき飛び出して来た奴ってーのは、おれが待ってたまるまる太った魚だった。
なんか、むちゃくちゃラッキー!!。なんて思ってたら、勢いあまって気絶してやがった魚が 気が付いてしまった。
「あのー、ここは地上ですか?。」
「はぁ?。」食ッときゃ良かった。
「地上なんですね。そして、あなたはペンギン。私の事が食べたいと思っている。」
ドッキ!。なんでわかるんだ。小ヤツただ者ではないな。
どうしよっかな?なんにも言わずに食っちまうか?と考えてたら。
「ぼく、サカナです。」
「はぁ。見ればわかるけど、何してんの?」
「ぼく、地上が見たくって来たんです。いつもいつも水の中でしかも天井は分厚い氷がはってるでしょ。空も見えやしないし…。聞いてます?。」サカナは、喋り続けた。
「ペンギンさん、ぼくの事案内して下さいな。この地上を。」何、言っとんじゃ?このサカナ。
「悪いけど、おれヒマじゃないから。腹減ってて動けない。お前、食われないうちにお家にお帰り。」おれは、そう言うのが精一杯だった。
「地上見物に連れて行ってくれたなら、そのあと、あなたに食べ物を差し上げます。だからお願いします。」
サカナが息苦しそうに頼むもんだから、おれは、バケツに水をくんで来てサカナを入れてやった。そう、即席のツアコンのお兄さんになった。
「ココが、氷山。これが流氷。そして、上から降って来るのが雪。」
「あのーっ。氷ものばっかりなんですね。他には何かないんですか?。」
「ない。ここにゃーこんなもんしかない。そのかわり、排気ガスがないキレイな空気があるぞ。 カキ氷食うか?、食い放題だぞ。」
二人で、氷を食った。腹はいっぱいにはならない。当たり前の事だが…。
「後は、どこ行っても同じようなもんだけどどうする?。」 サカナはじっと空を見ていた。
雪はとっくに止んでいて、ぼんやりしたお日さまが顔を出していた。 「ダイヤモンドダスト。」サカナが言った。
キラキラ空気の粒が光っていた。おれには、珍しくも何ともない。
だけど、サカナはすごく嬉しっそうにキャッキャ言っていた。 「ありがとう。ペンギンさん。」
「どういたしまして、だけど、おれの名前はギンだ。これからは、ギンでいいぞ。お前は、サカナって名前でいいのか?。」
「はい。あっ、それで約束の食べ物なんですけど。」
「おーっ。待ってました。それで何くれるんだ?。プランクトンの佃煮とかか?。」
「いえ、もっとギンさんが好きなものです。」
「おれが好きなもの?。」って、魚?。魚ってサカナ?。うそー!!。 「どうぞ。ぼくを食べて下さい。遠慮しないで、さあ。」
サカナは、おれを見つめてちっとも怖がらずに言った。
だけど、こいつを食う事は、おれには出来なくなっていた。
「いや。おれ今お腹いっぱいだから何も食べたくない。だからお前食えない。」 そう言うと。
「そうですか。じゃあ、お腹が減るまでぼく待ちます。」
「えっ!、そんな事されると困るよ。おれ、もうお前の事食えないから。うまく言えないけどなんか、友だちみたいな気持ちになってッから…。だから、早くお家にお帰り。」
おれは、そう言って海にサカナを戻そうとした。
その時、今まであった事もないくらい強烈な突風と雪でおれたちは、凍り付いてしまった。
バケツを持ったペンギンの銅像の出来上がり。
しばらくすると、その横をアザラシの親子が通りかかった。
「見て見て父ちゃん。ペンギンだよ。おいしそうだね。」
「おー!!。よく見つけたね坊や。今夜はごちそうだ。母さんも喜ぶよ。」
「わーい。これで父ちゃんも母ちゃんに怒られないね。」
「はははははは。」
アザラシの親子の笑い声が、白夜の空に凍りつき、太陽の光に反射して広い大地にいつまでもふりそそいでいました。



おしまい。


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